バレエを踊る人のための身体づくり|ピラティスが役立つ理由
2023年5月31日公開(2026年1月30日更新)

バレエは、軽やかで優雅な動きが印象的な一方で、身体には非常に高度なコントロール力が求められる芸術です。姿勢を保ったまま脚を高く上げる、軸を崩さずに回転する、しなやかさを保ちながら安定した動きを続けるなど、日々のレッスンや舞台では想像以上に繊細な身体操作が必要とされます。
そのためバレエを続けていく中で「思うように動けない」「姿勢や軸が安定しない」「特定の動きで不調を感じる」といった悩みを抱える人も少なくありません。こうした課題は、単に練習量を増やすだけでは解決しにくく、踊るための身体づくりそのものを見直す必要がある場合もあります。
近年、プロ・アマチュアを問わず、バレエを行う多くの人がピラティスを取り入れている背景には、こうした身体づくりへの意識の変化があります。今回はバレエに求められる身体の条件を整理したうえで、なぜピラティスがバレエを行う人の身体づくりに有効なのかを詳しく解説していきます。
バレエとピラティスの関係性

ピラティスは後からバレエの補助として応用されたトレーニングではなく、その発展の過程からバレエダンサーの身体づくりと深く結びついてきました。この関係性を理解することは、なぜ現在でもバレエ分野でピラティスが広く活用されているのかを考える上で重要な視点となります。
ピラティスの発展とバレエダンサーの身体づくり
ピラティスの創始者であるJ. H. ピラティス(ジョセフ・H・ピラティス)氏は、アメリカ移住後、怪我や慢性的な不調を抱えながらも踊り続ける必要のあるバレエダンサーに対して指導を行っていました。
当時のバレエダンサーにとって重要だったのは、単に筋力を強化することではなく、踊ることを休まずに身体の機能を回復・維持することでした。ピラティスはこうしたニーズに応える形で発展し、身体に過度な負担をかけずに整える方法として、バレエ界の中で受け入れられていきました。
バレエの身体観とピラティスの思想的な共通点
ピラティスが重視しているのは筋肉を部分的に鍛えることよりも、正しいアライメントの中で全身が協調して機能することです。この考え方は、見た目の美しさだけでなく、動きの過程そのものが評価されるバレエの身体観と強く重なります。
バレエでは、ある一瞬のポーズだけでなく、そこに至るまでの動きや安定性が重要視されます。ピラティスの「動きの質を高める」という思想は、こうしたバレエ特有の要求に応えるための土台となる考え方と言えるでしょう。
現在もバレエ分野で活用され続ける理由
ピラティスが現在に至るまでバレエ分野で支持されている理由は、その効果が一時的なパフォーマンス向上にとどまらない点にあります。ピラティスで姿勢、安定性、可動性といった要素を総合的に整えることで、バレエの日々のレッスンやリハーサルを支える身体の基盤をつくることができます。
この「踊るための身体を土台から整える」という考え方こそが、時代やレベルを問わず、多くのバレエ実践者にピラティスが選ばれ続けている理由です。そして、この土台の上に、バレエ特有の動きや表現が積み重ねられていきます。
バレエに求められる身体とは何か

バレエでは、見た目の優雅さとは裏腹に、非常に高度で繊細な身体コントロールが求められます。単に筋力や柔軟性があれば成立するわけではなく、「支えながら動く」「崩さずに広げる」といった相反する要素を同時に満たす身体が必要です。
姿勢を保ったまま動き続ける身体 ― ボディコントロールの基盤
バレエでは、止まっている瞬間だけでなく、動作の途中においても常に美しい姿勢が求められます。脚を上げる、重心を移動する、回転に入るといった動きの中でも、上半身の引き上げや軸の安定が崩れないことが重要です。
これは単なる筋力の問題ではなく、身体全体を意図的にコントロールする能力、いわゆるボディコントロールが大きく関わっています。例えばアラベスクやアティチュードのように脚を後方へ上げる動きでは、下半身が大きく動く一方で、上半身は引き上がったまま安定している必要があります。体幹が十分に機能していないと、上半身が反りすぎたり、骨盤が引っ張られたりして、腰への負担が大きくなりやすくなります。
このような場面で求められるのは、「姿勢を意識する」ことではなく、動きの中でも姿勢を保ち続けられるボディコントロールの土台です。バレエにおける美しさは、静止した形ではなく、動き続ける中で姿勢と軸を管理できる能力によって支えられています。
柔軟性とアイソレーション ― 動かす部分と支える部分を分ける能力
バレエでは高い柔軟性が求められますが、それは「どこまで動かせるか」だけを意味するものではありません。重要なのは身体の動かすべき部分と、安定させておく部分を明確に分離・独立させることです。この能力は、ダンス分野では一般的に「アイソレーション」と呼ばれています。
アイソレーションとは、身体の特定の部位を動かしながら、他の部位は必要以上に動かさずに保つことを指します。バレエでは、脚を高く上げる際に骨盤や上半身まで一緒に動いてしまわないこと、背骨をしなやかに使いながらも軸が崩れないことなどが、まさにこの能力にあたります。
柔軟性が高くても、上げた脚の位置で止められなかったり、ゆっくりとコントロールしながら下ろせない、また動きの途中でバランスを崩してしまうといった場合は、柔軟性に対してアイソレーションやボディコントロールが追いついていない可能性があります。バレエに求められるのは柔らかさそのものではなく、柔らかさを正確に扱える身体です。
繰り返し動作に耐えうる、全身で支える身体
バレエのレッスンでは、特定の動きやポジションを繰り返すことが多く、身体の使い方に偏りが生じやすくなります。例えば利き脚ばかりで軸を取ってしまったり、回転方向が固定されやすかったり、また特定の筋肉や関節に頼るなど、偏った動きが癖になってしまいやすいです。
こうした偏りは短期的には問題がなくても、長期的には足首、膝、股関節、腰、背中などへの負担として現れることがあります。この背景には、「動かす部分」と「支える部分」の役割分担が曖昧になり、結果として一部の筋肉や関節に負荷が集中してしまうケースが少なくありません。
そのためバレエを続けていくためには、全身を連動させながら、必要な部分だけを的確に使える身体、つまり高度なボディコントロールを土台とした身体づくりが求められます。この条件を満たすことが、次の段落で述べる「ピラティスによる身体づくり」へとつながっていきます。
バレエに求められる身体をピラティスでどう育てるか

前述の通り、バレエでは「姿勢を保ったまま動く」「動かす部分と支える部分を分ける」などの高度な身体操作が求められます。ピラティスがバレエを行う人にとって有効とされる理由は、まさにこれらの能力を段階的かつ安全に育てられる点にあります。
体幹から整えることでボディコントロールの土台をつくる
ピラティスでは、腹部・背骨・骨盤まわりといった体幹部分を重視し、身体を内側から安定させることを基本としています。この体幹の安定はバレエにおけるボディコントロールの「前提条件」と言えるものです。
体幹が十分に機能していない状態では、脚を動かすたびに上半身が揺れる、姿勢を保とうとして肩や腰に力が入る、動きが大きくなるほど軸が不安定になる、といった問題が起こりやすくなります。これは代償動作といって、ある動作を行う際に本来使うべき部位に痛みや不調が出ないよう他の部位で動作を補うことです。ピラティスではこうした代償動作を抑えながら、動いても崩れない身体を育てていきます。体幹が安定すると、バレエの動きの中で姿勢を意識し続けなくても、自然と引き上がりが保たれやすくなり、結果として動きの質そのものが変わっていきます。
→体幹を鍛える効果については別のコラムで解説しています。
動かす部分と支える部分を分ける練習でアイソレーションを高める
ピラティスでは身体の一部を動かしながら、他の部位は安定させておく構成が多く取り入れられています。これは、バレエにおけるアイソレーションの考え方と非常に近いものです。例えば、脚を動かすエクササイズでも、骨盤が安定しているか、背骨の位置が崩れていないか、上半身に余計な力が入っていないか、などの点に意識を向けながら行います。このような練習を通して、身体のどこを動かし、どこを止めるのか、という感覚が少しずつ明確になっていきます。
バレエで脚を高く上げた際に、骨盤や上半身まで一緒に動いてしまう場合、その原因は柔軟性不足ではなく、アイソレーションの土台が十分に育っていないことにあります。ピラティスは、この土台を丁寧に作ることができる点で、非常に有効な手段と言えるでしょう。
可動域を「使いこなす」ためのコントロール力を養う
ピラティスの動きは反動や勢いに頼らず、ゆっくりとコントロールされた動作で行われます。この特徴は、バレエに必要な身体能力と強く結びついています。
バレエでは上げた脚の位置で止める、ゆっくりと動きをつなげる、動作の途中で姿勢を崩さない、といった、可動域を扱う精度が求められます。ピラティスでは、筋肉を伸ばしながら使う動きの中で、「どこまで動かせるか」だけでなく、「どう動かしているか」に意識を向けるため、この精度を高めやすくなります。その結果、柔軟性と安定性が分断されることなく、バレエの動きとして活かせる可動域へとつながっていきます。
→ピラティスで柔軟性&筋力を向上する効果については別のコラムで解説しています。
身体への気づきが、踊りの質を根本から変える
ピラティスでは自分の身体の状態や動き方に意識を向けることが重視されます。左右差、力み、無意識の癖などに気づくことで、動きの質を修正しやすくなります。例えば、片側だけターンが不安定になる、特定のポジションで力が入りやすい、バランスを取る際に毎回同じ方向に崩れる、といった問題も、身体感覚が高まることで原因が明確になっていきます。この「気づき」は、振付や注意を受けた際の理解度を高めることにもつながり、結果として踊り全体の完成度を底上げします。
バレエを続けるための、負担を溜めにくい身体づくり
ピラティスは身体への負荷を細かく調整しながら行えるため、バレエダンサーにとって日々のレッスンと並行して取り入れやすい点も特徴です。無理に追い込むのではなく、身体の状態に合わせて整えながら強化できるため、繰り返し動作の多いバレエにおいても、負担を溜めにくい身体づくりが可能になります。このように、ピラティスはアイソレーションとボディコントロールを土台から育て、バレエの動きを支える身体をつくるための、非常に合理的なアプローチと言えるでしょう。
まとめ
バレエに求められる身体は、単に筋力が強い、柔軟性が高いといった一面的なものではありません。姿勢を保ったまま動き続ける安定性、動かす部分と支える部分を分けるアイソレーション、そして可動域を正確に扱うボディコントロールなど、複数の要素を同時に満たすことが求められます。
ピラティスは、こうしたバレエ特有の身体条件に対して、体幹を土台から整え、動きの質を高めるというアプローチで応えてくれます。身体の一部だけを鍛えるのではなく、全身のつながりや使い方に目を向けることで、バレエの動きを支える基礎を無理なく育てていくことができます。
踊りを続ける中で感じる違和感や不安定さは、努力不足ではなく、身体の使い方や土台に原因がある場合も少なくありません。ピラティスを取り入れることは、バレエの技術を高めるだけでなく、長く踊り続けるための身体を整える選択肢の一つと言えるでしょう。
バレエの動きを支える身体づくりを実際に体感してみたい方は、ピラティスの体験レッスンを通して、自分の身体の使い方を見直してみるのも一つの方法です。踊りを続けるための土台づくりとして、無理のない形で取り入れてみてはいかがでしょうか。







