ピラティス呼吸の全知識|効果とメカニズムを徹底解説!
2023年1月28日公開(2025年7月27日更新)

ピラティス最大の特徴は“動きを呼吸で制御する”点にあります。呼吸を疎かにすると体幹が安定せず、動作の質も安全性も大きく低下します。私たちは普段ほとんど意識せず、何気なく息を吸ったり吐いたりしているだけですが、呼吸は心と身体の状態と深い関係があります。ピラティスに限らず様々なスポーツでパフォーマンス向上のために呼吸を意識するように指導されたことのある方も多いでしょう。今回はそんな呼吸について、なぜピラティスで重要視されているのか、呼吸が果たす役割とメカニズム、そして正しい呼吸がもたらす具体的なメリットを徹底的に掘り下げます。
呼吸がピラティスで最重要視される理由
ピラティスの創始者であるJ.H.ピラティス氏は“Above all, learn how to breathe correctly.“(何よりも、正しく呼吸する方法を学びましょう)と述べていて、「呼吸」はピラティスの基本原理・原則の一つです。これは呼吸が姿勢保持と動作精度を同時に司る“司令塔”となっているからです。
動きと呼吸のシンクロニシティ

ピラティスでは吸気で胸郭を広げ脊柱を伸ばしやすいポジションを作り、呼気で腹横筋・多裂筋・骨盤底筋群といった体幹のコアマッスルを収縮させて安定性を高めます。このリズムがメトロノームのように動作テンポを決定し、腕や脚と胴体を連動させながら過剰な力みに頼らない滑らかなエクササイズを実現します。呼吸をカウントする習慣は集中力を保つうえでも効果的で、フォーム崩れを未然に防ぎます。
脳への酸素供給と集中力アップ

ピラティスで行う深い胸式呼吸は横隔膜の上下動を大きくし、血液中の酸素濃度を効率良く高めます。酸素が十分に循環すると大脳皮質が活性化し、身体への固有受容感覚(自分の身体が今どの位置にあるか、どの程度の力が入っているか、関節がどのような状態にあるか、などを脳が正確に把握するための感覚)が鋭敏になります。その結果、骨盤や肩甲帯の細かな配列変化をリアルタイムで感じ取り、エクササイズ中の姿勢修正が容易になります。さらに呼吸に意識を置くことで雑念が減り、マインドフルネス状態となりやすいため、短時間でも高い集中を維持できます。
安全面での恩恵—腹内圧と脊柱保護

呼気で体幹のコアマッスルが収縮すると腹内圧が適度に高まり、脊柱を内側から“コルセット”のように支えます。これにより椎間関節や椎間板への局所負担を軽減し、特に腰椎の過伸展や頸部の過緊張を防止します。こうすることで無呼吸で力んだ状態よりも軽い負荷で同等以上の安定性が得られ、怪我のリスクを大幅に下げられます。
ピラティス呼吸法のメカニズムと通常呼吸との違い
日常生活では腹式や胸式が混在しますが、ピラティスでは「胸式ラテラル(側方胸式)呼吸」という胸式呼吸と腹式呼吸のハイブリッドとも言える呼吸法を行います。これは肋骨を左右と後方へ拡げる独特の呼吸法です。
胸式ラテラル呼吸とは

ピラティスの代表的な呼吸法である「胸式ラテラル呼吸」は、「ラテラル(Lateral)」=横からの、側面の、水平の、という言葉の通り、胸郭(心臓や肺などを守る胸部の肋骨、胸骨、胸椎のこと)を横方向(側面と背面)に広げるようにして行う呼吸法です。
まず、鼻から息を吸うときは、肩を上げたり首の筋肉を使わず、肩甲骨の動きとともに胸郭を左右に大きく広げるイメージで行います。名前に「胸」とつくため胸の前側を意識しがちですが、実際は背中側、特に肋骨の背面まで膨らませるように吸気を行います。吸う際、横隔膜が下降することで本来は腹部が前方に膨らみやすくなりますが、この呼吸では腹横筋が“天然のベルト”のように腹部を引き締めているため、お腹を膨らませずに胸郭を外側と背面に広げることができます。これにより、吸気中であっても体幹が安定した状態を保つことが可能です。
そして吐くときは、胸郭がゆっくりと閉じていくのを感じながら、口から細く長く息を吐き出します。呼気時には横隔膜が上昇し、同時に腹横筋の働きが強まり、骨盤底筋群と連動して体幹がシリンダーのように安定します。こうした呼吸のメカニズムによって、ピラティス中の動作において体幹の安定性と力の伝達効率が高まり、より安全かつ効果的なエクササイズを実現することができるのです。
通常呼吸との比較

一般的な腹式呼吸は横隔膜を主体に腹壁を前方へ押し出し、リラックスを促すのに優れています。一方、胸式呼吸は肋骨が前後に開閉し交感神経を優位にします。胸式ラテラル呼吸は両者の利点を併せ持ちつつ、体幹を締めたまま十分な換気量を確保できる点が特徴です。換気効率は胸式より高く、腹圧は腹式より安定的に維持できるため、動作パフォーマンスと姿勢保持の両方に寄与します。
呼吸と動作のリンク

吸気で胸郭内にスペースを作ると肩甲骨や股関節の可動性が向上し、可動域が自然に広がります。対照的に呼気は体幹を締め動きを集約させるので、エクササイズの「力点」を作る場面に重ねると効果的です。例えば「ハンドレッド」などでは吸気5カウント+呼気5カウントがリズミカルな動作維持を助け、「ロールアップ」では吸気で脊柱を牽引し、呼気で腹部を凹ませながら背骨を一節ずつ丸めることで腰部への負担を軽減します。こうした呼吸と動作をリンクさせることでエクササイズが効果的になっていきます。
ちょっと休憩
ピラティスの創始者、J.H.ピラティス氏は動物好きとしても知られ、猫のしなやかな呼吸と動きを長時間観察してこのメソッドのヒントを得たそうです。胸郭と骨盤を連動させた“しなやかさ”こそが彼の目指した理想の身体だったそうです。
正しいピラティス呼吸がもたらす効果
呼吸の精度が上がると、それに比例してエクササイズ効果も高まります。ここでは身体面・循環面・精神面に分けてその理由を解説します。
姿勢改善と体幹強化

胸式ラテラル呼吸は吸気と同時に脊柱起立筋群(背骨の両側に位置して背骨を支える筋肉)を自然に伸ばし、呼気で腹横筋と多裂筋が協調して脊柱を内側から固定します。胸椎伸展が促されることで猫背が改善し、また骨盤底筋群の働きにより骨盤がニュートラルへと戻りやすくなります。これにより姿勢改善、反り腰や骨盤前傾の緩和といった効果がもたらされ、日常動作で腰痛などリスクが減少します。さらに肩甲骨の安定性が高まり、肩こりや首の緊張も同時に軽減します。
ピラティスの姿勢改善効果と体幹強化の効果についてそれぞれをチェック!
血流・リンパ循環の促進

呼吸の観点から見ると横隔膜は“第二の心臓”とも呼ばれ、体内の血液やリンパの循環を助ける「ポンプ」のような役割も担っています。胸式ラテラル呼吸のような横隔膜をしっかり動かす呼吸を行うと、胸やお腹の内側の圧力がリズミカルに変化し、その圧の変化によって下半身にたまった血液やリンパ液がスムーズに心臓へ戻るようになります。その結果、足のむくみが軽くなったり、疲労物質が排出されやすくなることで、エクササイズ後の回復も早まります。さらに、手足の冷えや肩まわりのこわばりがやわらぎ、基礎代謝のアップにもつながると考えられています。
自律神経とメンタルヘルス

呼吸を意識的にコントロールすると迷走神経を通じて副交感神経が刺激され、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑制されます。胸郭の動きとともに胸椎周囲の交感神経節が穏やかに刺激されるため、自律神経バランスが整い、心拍数や血圧が安定します。これは睡眠の質の向上に寄与するため、結果として不安感やイライラの軽減にもつながります。
正しい呼吸習慣とよくある間違い
正しいピラティスの呼吸を身につけたあとに重要になるのが「続ける工夫」と「間違いの早期修正」です。よくある呼吸のクセを挙げつつセルフモニタリング法と日常生活での習慣化テクニックをご紹介します。
首肩で息をする肩呼吸

呼吸の際、首の周囲の筋肉(胸鎖乳突筋や僧帽筋など)が優位に働くと肩が持ち上がり、肋骨は前後にしか開かず側方拡張が不足します。結果として胸郭の可動域が狭まり、浅い呼吸パターンが定着してしまいます。対処法は①仰向けで鎖骨に手を置き、吸気で手が大きく動かないか視覚チェック、②呼気で“肋骨ベルト”を締める感覚を添える、③鏡を使い肩の上下動をゼロに近づける、の3段階を試してみましょう。仕事中など日常生活の中でも1時間毎に肩を下げて肋骨を横へ膨らませる練習を行えば、肩こり予防と動作フォームの再学習が同時に進みます。
息を止める+肋骨が開く「反り腰呼吸」

呼気を止めたまま力むと腹内圧が急上昇し、同時に肋骨が前へ張り出す “肋骨フレア”* が起こりやすくなります。これらが重なると腰椎の反りが強まり、ピラティス本来の体幹安定効果が半減してしまいます。修正の鍵は「呼気を長く取る」ことと「肋骨を引き下げるように腹筋を意識して使うこと」の2点です。具体的には、①“1、2、3で吸い4、5、6で吐く”の6拍カウントを設定し、息止めを物理的に回避、②立位で壁に背を当て腰椎と壁の隙間を確認し、呼気でその隙間が狭まるまで肋骨を引き下げる練習を5セット行います。これにより体幹のコアマッスルと横隔膜の協調が整い、動作中の安定度が向上します。
*肋骨フレア=呼気で肋骨が十分に閉じず、前方へ突出した状態。腰椎過伸展の原因になる。
日常生活へのスマート転用

ピラティスの呼吸はスタジオ外でも実践するほど定着が速まります。デスクワークではタイマーを60分に設定し、アラーム毎に椅子に深く座って10呼吸のリセットを実施してみましょう。ウォーキングでは“3歩吸って3歩吐く”テンポで横隔膜を意識し体幹を安定させましょう。さらに重い荷物を持ち上げる場面では持ち上げる瞬間に呼気を行い、腹横筋と骨盤底筋群を同時収縮させることで腰部負担を軽減。こうした小さな習慣を積み重ねると、日常そのものが体幹エクササイズの場となり、ピラティスの効果を長期的に維持できます。
まとめ
ピラティスで行う胸式ラテラル呼吸は、吸気で胸郭を360度に拡げて可動域を確保し、呼気で体幹を締めて骨盤と背骨を内側から安定させます。これにより姿勢改善・腰痛予防・血流促進が同時に進み、横隔膜のポンプ作用が迷走神経を刺激することでストレスが緩和。睡眠の質や集中力までも向上させます。アクセサリー呼吸や息止めを避け、日常でも「3歩吸って3歩吐く」リズムを取り入れれば、スタジオ外での動作もエクササイズになります。正しい呼吸を習慣化し、身体と心のパフォーマンスを最大化しましょう。
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